日本卸電力取引所(JEPX)の市場価格高騰について~当社は、電気料金を値上げしません~
日本卸電力取引所(JEPX)における市場価格の高騰についての分析と対策
昨年12月後半から、日本卸電力取引所(JEPX)の市場価格が異様な高騰を続けています。1月1日には100円/kWhを超え、1月12日の約定価格は200円/kWh、翌日には250円/kWhに達しました。それまでの市場価格は平均しても8円/kWh前後でした。それが、いきなり30倍になったのです。
図1 卸電力取引所の市場価格(2021年1月12日約定分)
JEPX(卸電力取引所)の取引情報より
つまり、今まで8円/kWh前後で仕入れていた電気が、何の前触れもなく突然30倍の価格になって請求されるということです。まさに、危機的な状態です。
しかし、グリーンピープルズパワーは電気料金を値上げしません。緊急増資などの資金調達で乗り切ることを決めました。
その判断の背景として、この異様な市場価格高騰の当社としての分析と対策をお示しします。ここに書いたような、電力システム改革のさらなる促進と卸電力取引所に対する改革が行われれば、電力市場は安定を取り戻すでしょう。
また一部で言われているような、原子力発電や石炭火力の増強ではなく、再生可能エネルギーの拡大こそが必要であることもお示ししたいと思います。
1、そもそもきっかけは天然ガス
今年の初めから電力事情の逼迫が報道されるようになりました。北陸電力や四国電力では、最大電力に対し供給力99%や98%という数字もありました。このように電力の需要に対し供給力に余力のない状態を「需給逼迫」と言います。
どうしてこんなことになったのかというと、天然ガスが足りなくなったからです。日本の電気の40%くらいは天然ガスで100%輸入です。アメリカの東海岸、オーストラリア、中東などから運んでいます。
今回の需給逼迫の要因の1つは、液化天然ガス(LNG)を積んだタンカーがパナマ運河で待機させられ動けないということ。新型コロナウィルス感染のために運河の要員が足りなくなったのです。もう1つは、オーストラリアの天然ガス基地でパイプラインが動かなくなったということ。他にも、供給会社が需要を読み間違えて天然ガス輸入量そのものが減っていたという説もあります。
このように、いろいろな要因で需給逼迫したわけです。しかし、実は当社が電気を供給する東電エリアではそれほどの逼迫ではなかったのです(図2)。それなのに卸電力取引所の市場価格は高騰しました。なぜでしょうか。
図2 日本の電力需給状況
電力広域的運営推進機関(OCCTO)のホームページから
2、価格高騰の連鎖を引き起こした日本電力卸売市場(JEPX)の仕組み
自前の発電所を持たない新電力の多くは、供給する電気を日本卸電力取引所(JEPX)から調達するしかありません。取引所では、毎日の30分ずつ48コマの供給側電気(発電)と需要側電気(小売)が取引されており、その30分間の約定価格(取引成立時の決定価格)より低い買い札を入れた会社は電気を確保できません。といっても停電するわけではなく、東電エリアなら東電パワーグリッドから電気が供給されます。ただし、東電パワーグリッドに約定価格より高い価格(インバランス料金)を払わなければなりません。
つまり、買えないと約定価格より高い値段になってしまうので、買い札を入れる新電力は、昨日の約定価格より高く札を入れるのです。こうして、毎日連鎖的に約定価格が上がるという現象が発生したようです。
例えば、証券取引所だと、こういう場合に取られる対策は「取引停止」です。ところがJEPXにはその仕組みがありません。
また、インバランス制度についても問題があります。前日の計画値と実績値がずれることをインバランスと呼び、不足インバランスと余剰インバランスがあります。
ずれを発生させることが悪いことのように主張する向きもありますが、気象による変動電源である再生可能エネルギーにインバランスを出すなというのは無理があります。むしろ、その変動を吸収する需給システムこそが必要です。まして、買い札が約定価格を下回ると、その代金としてインバランス料金が請求されるというのは、懲罰的で本来の需給調整とは言えないものではないでしょうか。
図3 卸電力取引所(JEPX)の約定方法
JEPX取引ガイドより
3、この市場価格高騰で発電所は儲かっている
市場価格が高値ということは、そこに電気を販売する発電所は高値で電気を売れるということです。今まで5~6円/kWhで推移していた価格が、一気に200円/kWh以上になりました。これは発電原価とは別物であり、いわばバブル、濡れ手で粟的な収入です。
石炭や石油火力、この現象の原因を作った天然ガス火力は、市場価格高騰により高値で売られているということになります。調達に失敗した会社が損害を出すのではなく、そこから電気を仕入れている会社に損害が転嫁されています。
いったい誰が買い誰が売ったのか、卸電力取引所ではわからない仕組みになっています。もし大量の電気を高値で売りたい発電所を所有している会社が、最初に高値で「買い」を入れれば、その発電所の電気が「高値」で販売できるのではないでしょうか。そんな悪質な行為であっても検出できない仕組みであり、禁止条項にもなっていなければ、未然に防止する仕組みにもなっていないのです。
4、送配電事業者もどうやら濡れ手で粟
さらに、FIT特定卸供給の再エネ発電所の問題があります。FIT(固定価格買取制度)で、定額で電気を買い取られる発電所(FIT発電所)の「販売価格」は、設置年月によって40円/kWhとか32円/kWhなどと決まっています。
しかし、2017年から制度化された送配電買取で、小売事業者はFIT発電所の電気を直接買い取れず、いったん送配電事業者(東京電力パワーグリットなど)が買い取って、その発電所からの承諾を得ている小売事業者(当社など)に「卸供給」する仕組みに変わりました。これが特定卸供給です。なお「卸供給」の単価は、市場価格に連動すると決められました。
つまり小売事業者は、自分が事実上契約した発電所の電気をFIT価格そのままではなく、市場価格で買い取らねばならないということです。
一方で、送配電事業者はFIT価格で買い取っているため、市場価格からFIT価格を差し引いた残りが利益になります。今回のケースで言うと、例えばFIT価格40円/kWhで、市場価格200円kWhとすれば、40円で買って200円で売れると言うことになり、160円が儲けになります。
FIT発電所は日本の4分の1くらいであることから、卸電力取引所の約定量3000万kWから4000万kWのうち700万kWから1000万kWと推定できます。1ヶ月の発電量をkWあたり100kWhとすると10億kWhの発電量になり、市場価格が200円/kWhなら、これだけで1ヶ月に2000億円を稼ぐことになります。その2000億円は、実は全てFIT発電所の電気を消費者に届けている「再エネ新電力」もしくは、その消費者に押し付けられます。このようなことが許されていいのでしょうか。(図4)
図4 送配電事業者への利益発生の構図
制作:グリーンピープルズパワー
5、電力・ガス取引監視等委員会は何をしていたのか
再エネ新電力は、市場調達の電気では卸電力取引所に、FIT特定卸では送配電会社に、キャッシュを吸い取られてしまったのです。
このような事態に対処すべき責任は誰にあるのでしょうか。基本的に発電所を保有しない新電力にとっては、市場から購入する電気が供給する電気の全てです。これは違法なことでも不真面目なことでもなく、電気事業法に認められた小売事業の方法です。
そして、FIT再エネ電気を供給している新電力は、たとえ全てが自社所有の発電所であっても、その仕入価格は自動的に市場価格となる法制度です。
そのため、自分で発電し、自分で小売事業者として供給していても、仕入れ価格が販売価格の10倍、20倍になるということが起きたのです。
今までも100円/kWh以上の価格は、ピーク発生という形で起こることはありました。(ある時間帯だけ突出する「スパイク」と呼ばれます。)しかし、これだけならば、他の時間帯の低価格と平均され大きな影響はでません。
今回起こっているのはピークではありません。6:00~22:00くらいまで、ずっと高値が続くのです。需要の変化とは関係なく、株式相場が上がるように市場価格だけが高値に張り付いたのです(図1参照)。このような市場の動きを日本卸電力取引所(JEPX)は漫然と放置していました。
いったい誰が、この状況を是正できるのでしょうか。日本全体の需給状況を管理すべき電力広域的運営推進機関(OCCTO)は、何も手を打っていません。また、電力・ガス取引監視等委員会は、小売や発電、送配電会社が不正な行為を行うことを監視し正す役目であるはずです。
JEPXの入札の仕組み自体が価格高騰を生み出してしまうとすれば、監視委員会はそれを見逃したことになります。市場とはそういうものだと放置しているとしたら、その責任はあまりに大きいと思います。
6、最大の問題は不完全な電力システム改革
電力システム改革によって、日本卸電力取引所(JEPX)が作られたのは、それによる電力価格の安定も目的だったと思います。
しかし、電力システム改革の第3段階に入った2016年以降も、JEPXの市場規模は日本全体の需要に対し5分の1程度にとどまり、発販分離(発電事業と販売=電力小売事業の分離)も行われていません。
残りの5分の4にあたる大量の発電所を保有したままの東電など旧一般電気事業者(旧一電)が、市場に大量の電気を出せば価格は下がり、減らせば上げることができます。つまり、旧一電が市場支配力を持ったまま、場合によっては市場操作すら可能な状態だと言うことです。
今回の高騰が意識的操作によるものか、不可抗力のものか定かではありません。いずれであろうと、市場価格が10倍、20倍になることを止められないシステムは、電気料金を不安定にします。なんらかの価格上限の設定(注1)、イレギュラーな「買い」の抑制などの仕組みが必要であることがはっきりしました。
卸電力市場は本来、限界費用(燃料代などの発電におけるランニングコスト)で競争が行われなければなりません。公正な競争が行われれば、当然、燃料代がゼロの再エネが最も安い電源になります。ところが日本では、さまざまな制度を設けて、例えば今回のFIT特定卸供給のように再エネを非常に高い電源にしています。
電力システム改革を確実なものにするためには、完全な発販分離(発電と小売の会社を独立した資本関係のない法人に分離する)を行うしかありません。旧電力の発電部門と小売部門を所有権分離まで含めた別法人とし、持株会社としてホールディングカンパニーが君臨することも禁止することが必要です。
それによって電力市場は、ほぼ全需要をカバーするものとなり、老朽化した非効率な発電所の廃棄も早まり、限界費用が最も安い再生可能エネルギーの正当な評価と普及促進が行われるようになります。
この異様な市場価格の高騰を、逆に良い教訓として、道半ばの電力システム改革に、思い切った大転換と大手術を期待したいと思います。
(注1:この原稿を書いている最中、経産省はJEPXの買い入札の価格上限を200円/kWhとしました。一歩改善ではありますが、まだ高すぎると思います。)
最後に、当社を応援してくださる多くの皆さまに心より感謝致します。皆さまの支援を受けながら、その期待に応えられるよう、政府経産省や電力・ガス取引監視等委員会、公正取引委員会等を動かすべく努力したいと思います。
また、当社はこの市場価格高騰への対応として、冒頭にも書きました「4000万円の緊急増資」と、FIT発電所ではない「非FIT発電所」の比率を高めるべく「卒FIT大作戦」を展開します。
ご家庭屋根の発電所でFIT期間が終わった発電所をお持ちの方、ぜひ、グリーンピープルズパワーに電気を買取らせてください。
これからも、末永くグリーンピープルズパワーへのご支援を、よろしくお願い致します。
2021年1月18日
グリーンピープルズパワー株式会社
代表取締役 竹村英明
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